ジョーカー：フォリ・ア・ドゥをIMAXレーザーGTで見てきた！スタッフレビュー

あっと驚く幕開け

古めかしいワーナーロゴの後に始まったのはなんとアニメーション！『ルーニー・テューンズ』のようなカートゥーンの世界で、ジョーカーとジョーカーの影のすったもんだが描かれます。コテコテのギャグ連発で見た目にはかなりコミカルなのですが、どうやら前作終盤の展開を大まかになぞっているようで、不気味な雰囲気も漂います。前作のクライマックスと同じくTV番組に出演したジョーカーは警察に逮捕され、アニメーションが終了するとそこはアーカム州立病院。ゴッサム中の犯罪者が入院している施設で、ほとんど刑務所のような状態です。ジョーカーもといアーサーもここに入院、劣悪な環境で陰険な看守からの暴力にも耐える毎日です。裁判も進行中のようですが、アーサーは5名（実際は母親を含めた6名）も殺害してしまっているので「責任判断能力があったかどうか」が争点になっており、かなり劣勢（そりゃそうですよね・・・）。どこからどう見ても絶望一直線なのですが、そこに一筋の光（？）が。

ハーレイ・クインとの出会い

弁護士の元へと移動するアーサーは、その道中である女性と目が合います。彼女はアーカム内で行われている歌のレクリエーションに参加していた、リー・クインゼル（ハーレイ・クイン）。前作でもアーサーは隣人のソフィー・デュモンが自分に恋していると勘違いしていたので、今回もそういうことかと思いきや、なぜかアーサーは模範囚としてレクリエーションに参加できることになり、彼女の方から「あなたのファンだ」とアプローチしてきます。
近年のDCコミックスでは、ハーレイ・クインはジョーカーへの依存を克服し、自立した存在として描かれることの方が多くなってきている（『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒　BIRDS OF PREY』もそういう映画でしたよね）ため、違和感がなくもないのですが、ここに関しては後述します。

とにかく歌う！とにかく踊る！

休憩室のような場所でTVの報道番組を見るアーカムの囚人たち。ここでハービー・デント検事（のちのトゥーフェイス）が登場、ゴッサム市民の総意としてアーサーに死刑を求刑するようです。それを黙って見るアーサー。看守たちに「さっさと死んじまえ」と囃し立てられる中、やおら歌い始め、立ち上がり、踊ります。ここで流れるのはスティーヴィー・ワンダーの”For Once in My Life”という曲で、おそらくリーに出会えた幸せと全能感を歌っていると思われます。囚人や看守の周りを歌い踊りながら移動するアーサーでしたが、やはりこれは妄想。実際のアーサーはただ座って笑い声を抑えられずにいるだけでした。

その後、リーが火事を起こし一緒に脱走しようとするシーンでも大雨の中歌い踊り、独房に入れられても妄想のTV番組の中で愛を歌い、裁判でも傍聴席にいるハーレイと手をとって踊りと、とにかく歌う歌う、踊る踊る。ひたすら二人だけの「ハッピー」な時間を見せつけられます。はっきり言ってかなり困惑します。内容は「僕は／私はあなたを愛している」「二人なら大丈夫」というものばかりで正直飽きてしまうのですが、レディー・ガガの歌唱力とホアキン・フェニックスの味のある歌声でなんとか見ていられるという状態です。ネタバレなし部分でも触れた通り、IMAXではミュージカルシーンで映像が上下に広がり、撮影も凝っているので楽しくないわけではないのですが、何か引っ掛かります。

身も蓋もない結論

アーサーとリーが二人だけの世界に浸っている中、裁判はどんどん進行していきます。前作に登場した民生委員、隣人、同僚などが次々と証言台に立ち、「ジョーカー」ではなく「アーサー・フレック」の犯した罪やその結果もたらされた被害が淡々と明らかにされていきます。ここが「冷や水をぶっかける」パートです。前作である意味革命的に描かれたアーサーの行動一つ一つが、単に犯罪であったという身も蓋もない結論。弁護士を解雇し、自らメイクを施して自身の弁護をするアーサーでしたが、徐々に現実を理解していき、最終弁論では自らの境遇に対する同情や慈悲を陪審に訴えかけます。しかし奮闘虚しく、それぞれの罪に対して次々と言い渡される「有罪」の判決。リーにも信者にも見放され、万事休すかと思われたその瞬間、なんと裁判所が爆発（ハービー・デント検事はちゃんと顔の”半分”だけ怪我していましたね）。戸惑うアーサーでしたが裁判所から逃げ出し、「あの階段」へとたどり着きます。そこにいたのはリー。許してくれ、愛していると訴えかけるアーサーですが、もう「カリスマ」ではなくなったアーサーに用はないと、リーは突っぱねます。
前作ではとても印象的だったこの階段でのシーン。「アーサーがジョーカーになった」瞬間として描かれていた場所が、今作では「ジョーカーはただのアーサーだった」と現実を突きつけるシーンで使用されており、この対比がより一層残酷さを際立たせます。

完全に全てを失ったアーサー。再び逮捕されアーカムへと逆戻り。さらに追い打ちをかけるように、リーと同じく「ジョーカー」を失った信者に滅多刺しにされ、絶命。ピンボケ映像の向こうで、滅多刺しにした信者は笑い声を上げながら、自らの口を切り裂いている様子が仄めかされ、映画は幕を閉じます。

監督・脚本・撮影・編集・音楽：アーサー・フレック

なんとも後味の悪いラストなんですが、色々と引っかかるところがあります。まず序盤では看守から酷い扱いをされていたアーサーが、いきなり「模範囚」として歌のレクリエーションに参加させてもらえるという展開です。リーとの接点を作るための都合の良い筋書きのように思えました。次にリーからの無条件の好意。先述のようにコミックでのハーレイ・クイン像とは明確に異なりますし、実は嘘をついてアーサーに接近し操ろうとしていたという設定も、リーに見放されたアーサーからの一方的な思い込みに思えます。そして荒唐無稽な演出・展開の数々。ミュージカルシーンの挿入はかえって退屈になってしまうくらい多く、「二人はこんなに愛し合っている」ということを殊更に主張してくるかのような印象があります。裁判所の爆発も、まともな脚本家であれば書かないような、なんの布石もなく場面転換するためだけの雑なものに感じられました。「脚本に詰まったらいきなり忍者を出して戦わせればいい」なんていう冗談も存在しますが、あれに近いような・・・。ラストもアーサーの惨めさを強調しつつ、「次のジョーカーはまた生まれるぞ」という、言ってしまえば安直な「継承」の結末でした。

以上のような引っ掛かりは全て「アーサーの主観」であると考えれば、矛盾はないように思います。タカハラの個人的な見解ですが、リーと目が合って以降の展開はほとんどアーサーの妄想ではないでしょうか。裁判の結果と絶命するラスト以外は全て作り話で、死の間際、アーサーが苦し紛れに絞り出した物語を見させられているような、そんな気がしました。物語の内容だけでなく、映画自体の構造、脚本などにも正体不明の歪さ、そして拙さを感じ取ったため、『ジョーカー：フォリ・ア・ドゥ』は監督・脚本・撮影・編集・音楽、すべてアーサー・フレックによるものなんだと納得することにしました。もちろんトッド・フィリップス含め制作サイドがそのような解釈を見越していたかはわかりません。ただ少なくとも、明らかに前作を否定する続編であり、「悪のカリスマ」としてのジョーカー像を真っ向から否定し、映画が社会に及ぼした影響に関してけじめをつけた一本であることは間違いないでしょう。妄想であることが明示されないバランスではあるものの、都合の良い見方だけしていると取り返しのつかないことになるぞと、警鐘を鳴らしている作品だとタカハラは解釈しました。