『スーパーマン』（2025）をIMAXで見てきた！スタッフレビュー【ネタバレあり／なし選べる】

驚愕のスタート地点

「3世紀前、最初のメタヒューマンが現れ、地球は神々と怪物（Gods and Monsters）の時代に突入する」

「30年前、クリプトの生き残り、カル・エルが地球に降り立つ」

「3年前、カル・エルはクラーク・ケントと名乗り、スーパーマンとして活動を始める」

「3週間前、スーパーマンはボラビアとジャルハンプルの紛争に介入。物議を醸す」

「3時間前、スーパーマンは”ボラビアのハンマー”を名乗る人物と戦闘を開始」

「3分前、スーパーマンは初めて敗北する」

「3」で繋がるテキストでこれまでの時系列が説明された次の瞬間、はるか彼方から吹っ飛んできて「ドーーーン！！！！！」と思いっきり雪原にめり込むスーパーマン。口から喀血し、すでに虫の息です。なんとか息を吸い込み口笛を吹くと、とある人物から預かっている愛犬「クリプト」が猛スピードで駆け寄り、スーパーマンを引っ張って雪原にそびえる「秘密基地」へと連れて行きます。スーパーマンロボたちの力を借りて、太陽を浴び、体力を回復したスーパーマンは再びメトロポリスへと向かいます。

多くの人が知っているスーパーマンのオリジンについてはサッと説明を済ませ、無敵のイメージが強いスーパーヒーローの敗北から始まるという驚愕の導入です。リブートということもあり、てっきり地球に降り立つところから描かれると思っていたので、かなり意表を突かれました。ちなみに「ゴッズアンドモンスターズ」は新生DCUのチャプター1のタイトルでもあります。また、このシーンで登場するスーパーマンの肉親二人からの「人類を導く光となれ」というメッセージは、後半で驚きの真実が明かされます。

メトロポリスに舞い戻ったスーパーマンは再び「ボラビアのハンマー」と戦闘を始めますが、「ボラビアのハンマー」の背後ではルーサー・コープのトップにして天才科学者のレックス・ルーサーが暗躍しており、部下たちを使って「ボラビアのハンマー」に的確な指示を出し、スーパーマンを再び追い詰めて行きます。「殴る」「蹴る」「つかむ」といった行動ひとつひとつに「18A」「34B」といったコマンド名がついているところは、さながら格闘ゲームのようです。完璧なスーパーマン対策になす術なく、またもや地面に叩きつけられてしまったスーパーマンは「ボラビアのハンマー」をみすみす逃してしまいます。

「ボラビアのハンマー」は基地に帰投、仰々しいゲートを潜るとそこには次元の裂け目「ポケット・ユニバース」が広がっています。さらに別のゲートを通った先は先ほどまで映っていたルーサー・コープの司令本部。「ボラビアのハンマー」がメカメカしいスーツを脱ぐとさらに全身を覆う真っ黒な戦闘服が現れ、「ウルトラマンのご帰還だ！」とルーサー・コープの社員たちが歓迎します。

この「ウルトラマン」というキャラクターはスーパーマン原作にも登場するキャラクターで、なんならこちらの方が世に出たのは先（1964年）なのですが、もちろん日本の観客なら円谷ヒーローのウルトラマンを想像するでしょう。ジェームズ・ガン監督は日本の特撮ファンでもあり、「シン・ウルトラマンが楽しみだ」とコメントしたこともありますからね。正義のヒーローとして馴染み深い名前が悪役として登場する、ここでも意表を突かれました。

「正義」の揺らぎ

場面は変わって、スーパーマンがクラーク・ケントとして勤める新聞社デイリー・プラネット。同僚のロイス・レインやジミー・オルセンらが登場し、クラークと軽妙な会話を繰り広げます。クラークは「スーパーマンに独占インタビューした」という体で記事を書き、それなりに社内でも評価されているようです。

次のシーンではロイスの自宅にクラークが訪れます。クラークとロイスはすでに交際中で、クラークがスーパーマンであることもロイスは把握しています。しかし、ロイスはスーパーマンの活動方針にはかなり懐疑的なようで、いつも自分で自分の記事を書いているクラークに対し、「私のインタビューを受けてみない？」と提案します。クラークが快諾するとロイスは録音を始め、矢継ぎ早に「政府の許可も得ずボラビアとジャルハンプルの紛争に介入したことに責任を感じている？」「国に代表になったつもり？」「ボラビア大統領を拷問した？」とスーパーマンが突かれたくないところをピンポイントで追及して行きます。

この場面では、ロイスが私情に左右されない優秀なジャーナリストであるということや、二人の考える「正義」が異なっていることが端的に示されています。そしてこのロイスの疑問はそのまま「現代における正義とは何か」「現代においてスーパーマンができることは何か」というわれわれ観客の疑問とも直結します。たしかに、一人の人間が強大な力をもって政治に関与するというあり方は、場合によっては独善的で身勝手な結果も招きかねません。実際、今回のスーパーマンはかなり子どもっぽいというか、見た目は大人でもマインドは少年のようで、ある種の脆さも感じます。

それこそジェームズ・ガンは、反抗期の少年がスーパーパワーを得てしまい、暴走する『ブライトバーン/恐怖の拡散者』というホラー映画のプロデュースもしています。監督を務めた『スーパー！』という作品では、孤独な男が自警団として独善的な「正義」を執行する物語も作っているので、一人の人間が考える「正義」の危なっかしさに自覚的な作り手だと言えるでしょう。この点が物語の後半では深められていきます。

墜ちるスーパーマン

映画の中盤ではスーパーマン以外のヒーローたちの活躍や、レックス・ルーサーの悪行が明らかになっていきます。ルーサー・コープが放った怪獣がメトロポリス中心に出現し、これに対処するためスーパーマンが駆けつけ、続いてヒーローチームの「ジャスティス・ギャング」が現れます。ここではスーパーマンが次々と人々を救助していく胸熱なシーンのみならず、ジェームズ・ガンお得意のはちゃめちゃアクションが炸裂！テニスボールのようなドローンを操る頭脳派の「ミスター・テリフィック」、想像を具現化する指輪で戦う「グリーン・ランタン（ガイ・ガードナー）」、巨大な羽で空を飛び棍棒を振り回す「ホークガール」が巨大な怪獣相手に奮闘しますが、全然上手くいかず、「目を狙え！」というヒーローらしからぬ姑息な手を使うことに。グリーン・ランタンの能力で怪獣の目を無理やり開き、掘削機のようなビジョンで目玉をチュンチュン刺すシーンで「痛そ〜・・・！」と思っていると、同じく「痛そ〜・・・！」って顔をした民衆が映るという流れで笑ってしまいました。結局ミスター・テリフィックが怪獣の胃の中でドローンを爆発させ、スーパーマンに「怪獣は銀河動物保護局に引き渡すルールだろ！」と叱責されるジャスティス・ギャングですが、そんなのお構いなし。企業スポンサーがついている彼らは「我々は（企業名）の支援で活動しています！」と宣伝に勤しむ始末です。

スーパーマンがあきれていると、街頭ビジョンにニュース速報が。ルーサー一行がスーパーマンの秘密基地に潜入し、冒頭で出てきた肉親二人からのメッセージの破損箇所を部下のエンジニア（身体全体がナノマシンで出来ている人間兵器）が修復・解析したところ、クリプトン人は「地球を征服するために」スーパーマンを送り込んでいた事実が発覚したとのこと。もちろんスーパーマンにとっては寝耳に水ですが、救助された民衆は態度が一変し、スーパーマンに怒号を浴びせます。無実を証明するため自ら出頭するスーパーマンでしたが、政府はルーサーと結託し、ルーサーが所有するポケット・ユニバースにスーパーマンを幽閉します。ポケット・ユニバース内では、ルーサーが猿軍団を操ってSNSにスーパーマンの悪評とジャルハンプル支持者への誹謗中傷を投稿させまくり、自分に歯向かった人間たちを閉じ込めるための収容所を作っていました。

ただでさえ自分の考える「正義」に疑問を抱いていたスーパーマンに、追い打ちをかけるようにアイデンティティの喪失が襲いかかります。同じ部屋に閉じ込められている「メタモルフォ」の能力で、「クリプトナイト（スーパーマン唯一の弱点である物質）」に苦しめられ衰弱していくスーパーマンの姿はとても痛々しいです。どん底まで墜ちたスーパーマンはふたたび「上昇」できるのか、容赦ない展開に不安が募ります。

一方ルーサーはメタモルフォの子どもも幽閉することでメタモルフォを脅し、この作戦に協力させています。さらにルーサーはスーパーマンの友人でサンドイッチ屋を営んでいるマリを誘拐し、衰弱しているスーパーマンの目の前で無惨に処刑します。秘密基地に潜入した際には犬のクリプトも誘拐し、スーパーマンを脅すために利用しています。まさに鬼畜です。科学技術だけでなくSNSや報道など、あらゆる手段を駆使してスーパーマンを追い詰めて行きます。別のシーンではわざと鉛筆を落として部下に拾わせ、またその鉛筆を落として拾わせる描写もあり、自分以外の人間の見下し方や洗脳の巧みさが顕わになります。非常に現代的なヴィランです。

救いとなるコミカルさ

一方、どうしてもスーパーマンの肉親のメッセージの件が信じられないロイスは、ジミー・オルセンと協力してルーサーの悪事を暴こうとします。ジャスティス・ギャングにも協力を依頼しますが、グリーン・ランタンとホークガールはそこまで乗り気ではない様子。ミスター・テリフィックだけは協力してくれるようで、専用の特殊航空機「Tクラフト」でポケット・ユニバースのゲートがある場所へと向かいます。

無事到着するとルーサーの手下たちが襲いかかってきますが、ここでジェームズ・ガン十八番の長回しアクションがスタート！ミスター・テリフィックがドローンを駆使し、ご機嫌な音楽に合わせて次々と敵を蹴散らしていきます。ネタバレなし感想にも書きましたが、ちょっとミスター・テリフィックがカッコ良すぎます。あの異質なマスクに渋い声、寡黙でクールなのに、椅子に座った状態で空中に浮いているところがなんとなく間抜けだったり、Tクラフトのガレージのシャッターがやけに遅かったりと、どこか人間くさいところにめちゃくちゃ惹かれます。原作では天才的な科学者かつ億万長者でもあるキャラクターですが、フェアプレーをモットーとする真面目なヒーローであり、レックス・ルーサーと対になる存在としても描かれています。

そんななか、ポケット・ユニバース内ではルーサーに加担していたメタモルフォが、目の前で行われたマリの処刑に怒り、寝返って人工太陽を作りスーパーマンを回復させていきます。本来の力を取り戻したスーパーマンはメタモルフォの子どもとクリプトを救出して脱出しますが、ルーサーの部下に追撃され「反陽子の川」に落ちてしまいます。川下にはブラックホールがあり、万事休すかといったところで得意技の一つ「スーパーブレス」を使って難を逃れます。ゲートを開いていたロイスとミスター・テリフィックの誘導でなんとかポケット・ユニバースからも脱出、完全に療養するためカンザス州にある実家の農場へと運ばれます。

あわやブラックホールに飲み込まれるというタイミングでスーパーマンが口をすぼめ、「ピュウ〜〜〜〜」と息を吸った（吹いた？）ところには笑ってしまいましたが、一刻を争うピンチに見た目には間抜けな技が出てくることで、極限まで高まった観客の緊張をほぐしてくれる役目がありました。思えば怪獣との戦闘でも、踏み潰されたと思ったらモグラのように穴を掘って飛び出てくるコミカルなシーンがありましたね。今回のスーパーマンはタイツの上から赤いパンツを履いていますが、これは主演デヴィッド・コレンスウェットの「宇宙から来て目から光線を出すスーパーマンは、人々を怖がらせないようにちょっとばかげた見た目をしている方がいいと思っている」という意見が採用されています。こういうある種の「隙」が、スーパーマンという作品のシリアスになりすぎない部分を担っているのでしょう。

人には人の「正義」

カンザスの実家で療養したスーパーマンは、肉親ではない「地球の両親」に弱音をこぼしてしまいますが、「親にできるのは子を導くことではない。手段を与えてただ見守るだけだ」「お前の選択、行動こそがお前をお前たらしめるのだ」とアドバイスをもらい、肉親から受けた呪いを払拭します。ルーサーがポケット・ユニバースのゲートをわざと故障させ次元の裂け目を出現させてしまったので、人々を守るため、スーパーマンはふたたびメトロポリスへと舞い戻ります。裂け目が街まで到達し多くの高層ビルが倒壊していくなか、人命救助を続けるスーパーマンに、エンジニアとウルトラマンが迫ります。一度はナノマシンに殺されかかったものの、機転を利かせて一気に大気圏まで急上昇したのち、一気に下降することでエンジニアを倒したスーパーマン。しかし、ウルトラマンは倒せず、その破れたマスクからはスーパーマンと全く同じ顔が出てきます。そう、ウルトラマンはスーパーマンのクローンだったのです・・・。互角の力を持つウルトラマンに苦戦するスーパーマンでしたが、クリプトのアシストもあって、なんとかウルトラマンを撃退します。一度はどん底まで墜ちたスーパーマンが大気圏へ急「上昇」することで敵を倒し、さらに自らの鏡写しとなる存在にも打ち勝つという、象徴的な場面でした。

その頃、ジャルハンプルではボラビアによる二度目の侵攻が始まろうとしていました。市民の前に武装した軍が迫り、虐殺が行われかけたその時、助けに駆けつけたのはグリーン・ランタンら、「ジャスティス・ギャング」の面々でした。次元の裂け目を作ることとジャルハンプル侵攻を同時に起こしたのもルーサーの策略でしたが、スーパーマンは「他人に頼る」ことでこの危機を乗り越えたのです。ジャスティス・ギャングの中でも特にいけすかない雰囲気のグリーン・ランタンが、巨大な中指立てポーズで戦車を薙ぎ倒していくシーンには、言葉にできない爽快感がありました。海外でもすでにミームっぽくなっています。ルーサーと繋がり大量に兵器を買い込んでいたボラビアの大統領はホークガールに上空まで連れて行かれ、そのまま落っことされていていい気味でした。

激闘が行われる最中、ロイスたちデイリー・プラネットの面々は、レックス・ルーサーのパートナーであるイブの協力を得て、ルーサー・コープの悪事を暴く記事を完成させ、大々的に報道します。ジャーナリズムもまた、世の中を良くするために有効な手段なのです。そしていよいよ退路を断たれたルーサーの前にスーパーマンが現れます。必死で自分の「正義」を語り、部下たちにアピールするルーサーでしたが、全部喋り終わる前にクリプトが襲いかかりボロボロにされ、あえなく逮捕されてしまいました。彼もまた自分の「正義」で動いていたというところが肝ですね。

次元の裂け目はミスター・テリフィックが修復し、ポケット・ユニバースにいた人質たちも皆解放され、互いの「正義」を成し遂げたクラークとロイスは元の関係に戻ります。戦いの傷を癒すため秘密基地に帰ってきたスーパーマンは、肉親からのメッセージではなく、地球の両親との思い出の映像に囲まれながら回復の時を待つのでした。

映画『スーパーマン』はどんどん混沌を極めていく世界の中で、自分の信じる「正義」を貫き通すだけでなく、人には人の「正義」もあると認め、時にはその人を頼ることで、必ず道は開けると教えてくれました。戦争や虐殺には徹底的にNOを突きつけてくれるところも安心して鑑賞できますね。「正義」という言葉で全てを正当化できるわけではなく、明確に否定できる「正義」もあるということです。自分も何か、世の中を良くするために行動できるかもしれないと思わせてくれる、正真正銘のスーパーヒーロー映画でした！