『プレデター：バッドランド』を見てきた！スタッフレビュー【ネタバレあり／なし選べる】

ネタバレあらすじ

ヤウージャの兄弟

冒頭、スクリーンに映し出されるのは我々が「プレデター」と読んでいる種族「ヤウージャ」の母星です。若き戦士デクは兄クウェイと再会、早速力比べが始まります。屈強な兄に力も策も及ばないデクは、兄の提案でヤウージャの通過儀礼「強い生き物の首を持ち帰る」に挑戦することを決めます。通過儀礼のターゲットは「バッドランド」とも呼ばれる死の星「惑星ゲンナ」に住む最強の生物「カリスク」です。その直後に二人の元へ父親が現れ「弱い者は処分しろ」と兄クウェイに命じますが、弟想いのクウェイは手を下さずデクを逃がし、父へと反旗を翻します。宇宙船に閉じ込められ見ていることしかできないデクの前で父はクウェイの首を切り落としてしまいました。父の所業に怒りをあらわにするデク。しかし、なす術もなく宇宙船は出発し、通過儀礼の舞台である惑星ゲンナにたどり着きます。

ティアとの出会い

不時着したデクは、早速動くツタや、爆発する芋虫、毒針を出す植物などバッドランドの洗礼を受けます。翼竜からの攻撃も受け万事休すかと思われた時に、声をかけてきたのが上半身だけのアンドロイドのティア。「カリスクの情報を持っているから移動を助けてくれ」とデクに頼み込んできますが、通過儀礼は一人で行うのがヤウージャのルール。デクは「お前は道具だ（だから助けてもらってもいい）」ということにし、渋々協力することになります。ティアはカリスクを調査するためにこの星を訪れたこと、テッサというアンドロイドとの友情のような関係についてデクに聞かせます。

バドとの共闘

一方その頃、ティア同様ボロボロになったテッサはバッドランドのどこかにある調査団の本拠地で自分を再起動し復活、ティアがヤウージャ族と行動を共にしていることを知り、カリスク調査を邪魔されないよう、二人を追います。デクとティアはカリスクのエサであるボーン・バイソンの狩りに挑みますが、カミソリのような草原に阻まれ手が出せません。手をこまねいていると現れたのが、小さな猿のような生き物「バド」。草原をものともせず進み、ボーン・バイソンと戦い始めます。後れをとってなるものかとティアを背負ったデクも戦いに加わり、意図せず協力する形に。結果ボーン・バイソンだけでなくヒトデのような巨大生物ルーナ・バグも討伐します。なんだかんだで協力したバドと焚き火を囲むデク。バドに懐かれるものの、連れて行く義理はないとバドを置いて先に進みます。

カリスクとの対決

ティアたちアンドロイドとカリスクが戦った場所に辿り着くと、デクがカリスクをおびき出し戦い始めます。ティアは上半身と下半身をくっつける手術中で手が出せません。カリスクに猛攻を加え体のさまざまな部分を切り落としていくデクですが、カリスクの最強たるゆえんとは、何度体を切っても再生する治癒能力でした。首を切り落としても復活するカリスクに全く歯が立たず、ティアの力を借りてもどうにもならないデク。カリスクから地面に抑え込まれ、絶体絶命というタイミングで現れたのはテッサ。ヤウージャの武器でカリスクをデクごと凍らせ、強制的に戦闘をやめさせます。デクはそのまま気を失ってしまいます。

テッサとの決戦

デクが目覚めるとそこは移動するビークルの中。テッサはティアの話もろくに聞かず、デクをサンプルにするため脳機能を破壊しようとします。機転を効かせたティアが、テッサが離れているうちにデクを脱出させ、ビークルから転げ落ちそのまま滝壺へと落下するデク。ティアから聞いた「群れを守る狼《アルファ》」の話を思い出し、自分もアルファになると決意します。ここまでの道のりで出会ってきた危険な動植物たちを武器へと作り替え、実はカリスクの子どもだったバド、そして独立して動くティアの下半身とも合流し、アンドロイドの本拠地へと乗り込むデク。警備アンドロイドたちをどんどん蹴散らしていき、ティアとも合流を果たします。カリスクを逃がそうとしたところで、巨大な人型の重機に乗ったテッサが現れ、デクたちの前に立ちはだかります。重機のパワーに圧倒され万事休すのデク。もうダメかと思ったところで眠りから覚めたカリスクが登場し、テッサを丸呑みにしてしまいました。めでたしめでたし・・・かと思いきや、テッサがカリスクを内側から凍らせ爆発させることで体内から復活、ティアを手にかけようとしますが、隙をついてデクが攻撃し、難を逃れます。狩りの対象を失ったデクは「まだやることがある」と何やら準備を始めます。

父への復讐

場面は変わってヤウージャの母星。父がいる本拠地にデクが降り立ちます。兄クウェイの命を奪った父親に復讐を果たし、一人前の戦士の証である「クローク（光学迷彩マシン）」を得るべく、舞い戻ったのです。兄ですら歯が立たなかった父親をどんどん追い詰めて行き、ついにはひざまずかせるデク。自ら手を下すことはせず、どうするのかと思っているとデクの身の丈を超えるほど成長したバドが現れ、父親の首を噛みちぎってしまいました。ティアも姿を表し、「これが俺の一族だ」とデクは高らかに宣言します。ここで映画が終わるかと思いきや、デクたちの前に巨大な宇宙船が降り立ち、デクは「母上（マザー）だ」とつぶやきます。ここで映画は幕を閉じました。

最新のテーマと旧来の魅力

今までの『プレデター』シリーズにおいて、プレデターとは人類を超越した力や異なる倫理観を持つ、ある意味別次元の存在として描かれてきました。その過剰なまでの暴力性や狩猟、そして名誉への執着は、「男らしさ」の象徴だったとも言えるでしょう。そういった旧来のプレデター的な価値観とは真逆の性質を持つのが今回の主人公デクです。強さ至上主義の世界の中で「落ちこぼれ」扱いのデクが、ティアとバドとの共闘やオオカミの例を通じて異なる強さを理解し、旧来の価値観＝父親と訣別し、自らの考える「家族」を選び取るという展開はとても今日的です。

それでいて今作は旧シリーズの魅力も引き継いでいます。ボーン・バイソンが真っ二つになったり、アンドロイドの手足が飛び散り脊髄が引っこ抜かれ・・・と、残虐な描写も健在です。父親との訣別も命を見逃して終わり、などという優しいものではなく、プレデターらしい残酷だけど少し笑えてしまうような描写になっています。ユーモアの点で言えば、バドとのコミカルなやり取りはもちろん、ティアの下半身が大暴れするアクションシーンはなんとも言えないおかしみに溢れています。上半身と下半身のハイタッチは一体何を見せられているのかと困惑しました・・・。最新のテーマと旧来の魅力が同居し、奇跡的なバランスで成り立っている傑作だと思います。

巧妙な脚本

今作は脚本も緻密に練られています。過去作では言葉を話すこともほとんどなく、超越的な存在として描かれてきたプレデターとは異なり、『プレデター：バッドランド』でのヤウージャたちは冒頭から会話しまくっていて、観客にもその内容が理解できるようになっています。これは旧来の強さ規範から離れた「新しいプレデター像」を提示する作品だということを飲み込みやすくするための導入です。続くデクと兄クウェイのシンプルな力比べも残虐なプレデター像とは少し違う爽やかさがあります。力比べの後の会話では、クウェイはデクに命を救われたことがあると判明します。兄弟に対して情があるプレデター像はとても新鮮で、遠い存在であったプレデターたちに一気に感情移入しやすくなります。

道中で登場した動植物が、終盤ではデクの武器となる展開も鮮やかです。まさかあのヒルみたいな生物をいつもプレデターが肩に載せているブラスターに見立てるとは・・・！あまりに予想外で笑ってしまいました。爆発する芋虫と毒針草を使って一気にアンドロイドを蹴散らす様も爽快です。序盤では主人公を苦しませた存在が、終盤では役目を変え頼もしい味方となる、お手本のような伏線回収でした。

また、プレデターにとってもアンドロイド＝人類にとっても狩りのターゲットとなる存在に、「不死身の生物」という設定を与えた点にも唸りました。殺せない生き物を殺すことがヤウージャにとっての名誉であり、死なない生き物から不死の手がかりを得ることが人類にとっての悲願であるという状態は、両者が争う理由になります。そのうえでカリスクとバドの親子関係を明らかにすることで、アンドロイド側が行使しようとしている力は家族を引き裂くもの、つまりはデクと兄クウェイを引き裂いた父親と同じ力であることを示し、これに対してデクが手に入れるべき力は家族を「守る」ための力であるということが逆説的に浮かび上がってくるのです。

オマージュ

今作は過去作やSF映画好きに響く要素もふんだんに盛り込まれています。肩につけるブラスターについて、クウェイがデクに「自分の頭を吹っ飛ばすなよ」とからかうのは、『ザ・プレデター』で実際に自分の頭を吹っ飛ばしてしまったキャラクターがいることに由来しています。また、デクとティアが互いの手を取り合う様子は『プレデター』1作目でのダッチ（アーノルド・シュワルツェネッガー）とアル（カール・ウェザース）の再会シーンを彷彿とさせます。クライマックスに向けてデクが戦闘準備するシーンも『プレデター』1作目でダッチがプレデターを迎え撃つための罠を用意するシーンと重なります。

『プレデター』シリーズだけでなく、『エイリアン』シリーズの要素もたくさんあります。ティアがウェイランド・ユタニ社のアンドロイドであることはもちろん、男性アンドロイドは『プロメテウス』や『エイリアン：コヴェナント』に登場するデヴィッド（マイケル・ファスベンダー）にそっくりです。極めつきはテッサが乗る重機！『エイリアン2』のクライマックスでリプリー（シガニー・ウィーバー）が乗るパワーローダーをさらに大きくしたような代物で「やりすぎだ！！」と思わず吹き出してしまいました。今後もさらにクロスオーバーしていくのが予想できて、わくわくしちゃいますね。